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講師にとっての報酬とは?

代表弁護士 吉岡 毅

<復活掲載コラム>

 

先週5月13日(※2016年)、埼玉弁護士会の当番通訳人名簿に登録してくださっている司法通訳者の皆様に向けた「通訳人研修会」があり、昨年に引き続いて私が講義をさせていただきました。

 

当番通訳人とは、日本語に通じない外国人被疑者(被告人)から弁護士会に当番弁護士の派遣要請があった際に、担当の当番弁護士と一緒に警察署等に同行して、接見(面会)の通訳をしていただく専門家です。

高度な語学力が必要なことはもちろんですが、一定の法律知識や通訳人としての高い倫理観も要求されます。

加えて、いつ当該言語を使う外国人が逮捕されるか(当番弁護士から通訳を依頼されるか)なんて、まったく予想がつかないわけですから、仕事が入る日時も回数も事前には一切わからないという、極めて不安定な職業でもあります。

その割に、決して十分な報酬が保障されているわけでもなく、ボランティア精神がなければできない仕事です(そのため、多くの登録通訳人の方は、専業を別にお持ちです)。

そういった点は、委託援助制度や国選弁護人制度のもと、極めて低額の報酬費用で弁護活動をする刑事弁護人と似ているのかもしれません。

 

 

この通訳人研修会は、通訳人の方々に対して、より高度な法律知識や刑事弁護実務を学んでいただく機会をご提供するとともに、弁護士と通訳人の方々との信頼関係や連携協力関係を強めよう(懇親しましょう)という企画で、このところ毎年恒例の開催となっています。参加者も非常に多くて、いつも盛況です。

今年も研修会の基本構成は昨年同様で、第一部は弁護士(私)による法律講義、第二部は参加型の研修(今年は優勝賞品付き通訳人実務クイズ大会!)、お開き後というか第三部が、ちょっとした懇親会でした(これがメインかも?)。

 

昨年の私の講演では、「日本の刑法」について、しかも、弁護士でも普段あまり勉強することのない「刑法総論」にスポットを当てました。

珍しい話だったせいもあってか、ありがたいことに好評をいただいたので、今年はその続きのイメージで「日本の刑事訴訟法」をテーマにしました。

 

もっとも、刑事訴訟法は、刑法以上に日常生活と掛け離れていて分かりにくい「手続法」です。大学の法学部でやるような普通の講義をしても、通訳人の方にとって役に立つ内容にはなりません。

そこで、通訳人の方が被疑者との接見(面会)や裁判の法廷通訳をする現場で必ず登場する「供述調書・自白調書」の意味や役割を中心に、刑事訴訟法の目的や考え方、弁護活動との関係などをお話しさせていただきました。

 

 

人に何かを教えることは、自分がそれを深く学ぶための何より優れた方法です。

講演のための事前準備だったり、壇上で聞き手の反応を見ながら瞬間的により分かりやすそうな表現へ言い換えたりすることを通じて、自分の中にもともと持っている知識が、さらに生き生きと脈打つのを強く感じます。

そういう意味で、私は多分、教えることが大好きなんだと思います。

準備にはすごく時間がかかるし、聞き手のニーズに合わせた内容を練るのに、いつも大変な思いをするのですが、不思議と嫌な気持ちにはなりません。

 

実際、講演や講義をするのが好きですし、講師を引き受ける回数も、普通の弁護士と比べて多い方だろうと思います。

私の過去の主な講師歴については、『 弁護士吉岡毅の講演等の実績 』のページをご覧ください。

(より詳細な講師歴については、個人サイト『弁護士吉岡毅の法律夜話』のプロフィールページから「 講演会・講師等の実績 」のページをご参照ください。リンクは別ページが開きます。)

 

ただ、講師が聞き手から講演の感想を直接伺う機会は、必ずあるとは限りません。

なので、この通訳人研修会のように、直後の懇親会等で聞き手の方々からすぐに感想などを聞けると、とても嬉しいですね。

ちょっとしたアンケートを書いていただくだけでも、講師にとっては幸せなことで、とても役に立ちます。

 

 

 

でも、何と言っても一番嬉しい講師報酬は、小・中・高校などの学校で授業をした後で、生徒のみんなから感想文や手紙をもらったり、授業後に取り囲まれて質問攻めにあったり、子どもたちと一緒に給食を食べたりすることですね。

その日の給食がたまたまカレーかソフトめんだったら、それこそもう最高に嬉しいです!!

 

……ってことは、講師業にとって一番の報酬は、給食(=懇親会)なのかもしれませんね。

 

 

(初出:2016/3)

 

 

*復活掲載コラムは今回で一区切りです。次回からは新ネタになります。お楽しみに!*